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基調講演
『企業の成長を支える技術経営』

花王株式会社会長 後藤卓也 氏
花王株式会社会長
後藤卓也 氏

企業が成長して行く上で、技術を経営の中核に置くこと(MOTの本質)が重要である。本日、花王におけるMOT事例を紹介することでご来場の皆さんのお役に立てれば幸いである。
花王の事業ドメインは「清潔ですこやかな毎日をめざす」ことで、花王におけるMOTとは、技術開発に根ざした「よきモノづくり」により、「清潔」「美」「健康」の価値を消費者に提供するとともに、コア技術を応用し産業界へ貢献するためのマネジメントである。
MOT(技術経営)の本質とは、技術に軸足をおいて、すなわち技術を経営の中枢において、経営の立場から「モノづくりのあり方」を問うことである。
技術によって差別化され、独自性を持った「モノ」(商品価値やブランド価値)を生み出し、それが企業価値を高めることになる。技術は顧客の視点に立つことによって初めて顧客に受け入れられ、価値を生みだすことになる。そのための技術の拡がりやチェーンを大事にしていきたい。

<花王のMOT>
MOTにおける技術戦略の3要素は、MITのProf . Cusumanoによると、「価値創造」「価値実現」「価値利益化」とされているが、花王は、MOTとは何かを特別に意識することなくMOTの3要素を実現してきた。

  1. 価値創造:イノベーションの創造能力として、基盤研究会議に基づく基盤研究の強化
  2. 価値実現:競争優位をもたらす組織能力として、部門間の壁を越えたコラボレーション(マトリックス運営)
  3. 価値利益化:技術を利益に結びつける能力として、消費者視点の重視(商品開発5原則)

<花王の研究開発>
「清潔」「美」「健康」を実現する商品を創りだすために、コア技術戦略をたて、技術の強みを長期にわたって発揮し、多様な商品を開発してきた。そのために基盤技術開発研究と商品開発研究をうまく摺り合わせ、革新的な商品を提案してきた。花王におけるコア技術とは、「油脂科学」「界面科学」「生物科学」に代表されるもので、技術ポテンシャルがどの位置にあるかを認識して多面的に展開し、消費者に何を成果として生み出すかのニーズを的確に捉えて商品開発に結び付けている。

  1. 花王の研究開発部門の基本方針
    R&Dを企業の活力・革新の原動力とし、経営戦略との整合を図っていくことである。それは下記のように整理される。
    1. 真理の探究
    2. 開かれた研究所(まじめな雑談)
    3. サイエンスからテクノロジーへの転換
      (商品開発研究部門と基盤技術研究部門のマトリックス運営)
    4. シーズとニーズのマッチング(研究開発とマーケテイングの融合)
    5. 異質なものとの協働(多様性の融合)
    若い研究者が自由な発想をすることが重要で、そのために開かれた研究所、研究者同士のまじめな雑談ができるように配慮している。大部屋制度もその一環である。

  2. 商品開発の5原則
    1. 社会的有用性の原則
      真に社会にとって有用な商品であること
    2. 創造性の原則
      創造的技術・技能が盛り込まれていること
    3. パフォーマンス・バイ・コストの原則
      コストパフォーマンスで他社商品より優れていること
    4. 調査徹底の原則
      徹底した消費者調査に耐えたものであること
    5. 流通適合性の原則
      流通過程で情報伝達力があること

  3. 商品開発研究の基本的考え方
    研究開発部門の最大の使命は、新たな価値・市場を創造する画期的な技術・商品を生み続けることである。見てわかる。触ってわかる、使ってわかることを約束できる性能を生み出すことが、消費者と花王の双方にとっての高付加価値の創出になる。クレームは消費者からのありがたいメッセージと捉えている。言葉や行動に隠されている本物のニーズを探ることが、消費者に驚きと感動を与える商品となる。初期の研究段階から、消費者・顧客とのコミュニケーションを重視している。創造性を重視することが競争力の源泉で、他社にまねのできない技術となる。

  4. R&Dマトリックス組織
    商品開発研究所と基盤技術研究所をマトリックス組織にしているのが研究開発体制である。
    商品開発のニーズやウオンツに対応できるように、状況に応じて柔軟に各組織が絡み合って研究開発を実現していく。基盤研究の実行部隊としての7研究所があり、その研究現場と基盤研究会議の融合によって新しい価値が創造される。基盤研究会議は花王のコア技術のインキュベーターで、この場を活用して技術が深化・拡大・融合されていく。基盤研究から生まれた差別化技術として、洗剤用酵素「アルカリセルラーゼ」→「アタック」、吸水ポリマー→「メリーズ」、液晶型保湿剤「セラミド」→「ソフィーナ」、低蓄積性食用油「ジアシルグリセロール」→「健康エコナ」、脂質燃焼促進素材「高濃度茶カテキン」→「ヘルシア茶」などがある。

<商品開発の新しい形>
事業部とR&Dとの間でコンセプト(商品設計)とTechnology(技術資産)が交換される。エコナ、ヘルシアのように技術起点で商品像を押し出す「Technology Push」と、商品像起点で技術シーズを引き出す「Concept Pull」があるが、新たな姿として、アジエンスの様に商品像起点で新規シーズを開発するスタイルも試行している。
かつてはニーズが顕在化していたが、最近は潜在ニーズといえども簡単には捉まらない「カオス」の時代で、潜在ニーズを探り、掘り起こす時代になってきている。
「Concept Pull」は、トレンドを生むコンセプトの提案が求められ、そのためにコンセプトを具現化する技術の蓄積、そして技術を消費者価値や情緒に変換する仕組みと人材がいる。
「Technology Push」は、驚きを与える機能の提案が求められ、多様な消費者価値を具現化する新しい基盤技術、そして消費者の価値や情緒を技術語に翻訳し理解する人材がいる
。 この両方を絡み合わせていくことによって、多様な消費者・顧客ニーズを的確に捉えた商品開発が可能になるのではないかと考えている。
また、社内外のコラボレーションも更なる推進が求められる。

<花王R&Dの不易流行>
不易(継続強化すべき文化)は、現場主義に基づく緩やかな統制、開かれた研究所(マトリックス運営)、消費者起点の技術開発と基礎研究である。
流行(新に獲得すべき文化)は、研究生産性の重視、異質なものとの融合(社外研究資源の活用)、幅広い技術に対する判断力の育成・強化(技術の目利き)である。どんな技術が花咲くかの目利きである。
R&Dの強化の方向は、「深める、広める、融合する」に加え、外部との協業、異質の取り込みと新たな結合により、「花王流MOT」を強化・ブラッシュアップすることである。

<まとめ>

  1. 事業の成否は企業の総合力で決まる。
    すべての部門がシンクロすること、そして地味な部門のエンカレッジが大切である。
  2. 環境がどう変わろうとも、最も重要な経営資源は技術
    消費者は、二度はだませない。そのためには、コア技術を磨いて徹底的に活用する。 コア技術を徹底的に磨いて活用する事がMOTの本質である。
  3. 企業成長の源泉は、確固たる技術が根底にある総合力
    総合力は人材によって支えられる。企業を生かすも殺すも最後は「人」が鍵を握る。 その総合力を支えているのが、「マトリックス運営」である。

講演資料(PDFファイル:747K)

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