第三回シンポジウム
~2007年9月27日開催~ [開催報告] #4

パネルディスカッション『MOT教育の最前線:認証評価試行を踏まえて』

<産業側、およびマスコミの要望>

花王(株)後藤氏および株日立製作所中村氏の基調講演では、技術を経営の中枢において、ものづくりを行うことの重要性と、その視点に立ってMOTの認証評価を行うことが指摘された。
三菱電機エンジニアリング(株)の尾形氏からは、強い技術をさらに強くしていかないと日本の生き残りはない、そのような教育をMOTは行うべきである。日本経済新聞の中村氏からは、MOTは、技術経営に立脚したT字型人間を養成して欲しいことが要望された。

  • 技術と経営との双方の講義のバランスをとって、一人一人が考える時間を取るようにカリキュラムを構成している。
  • 経営、工学、技術と分類していくところに難しさがあるので、それらを融合するように教育を行っている。
  • MOT教育科目は、基礎科目、応用科目、プロジェクト科目と分類される。そして、全体の中でMOTがコアとすべきことを明確にしたい。その上で、各大学が独自性を持って教育する科目とに分類していく。プロジェクト研究は、実践力・総合力を身に付けるためのカリキュラムである。
  • 実践力を身に付けるために、講義方法は双方向に行う配慮をしている。また、ケーススタデイやケースメソッドを取り入れ、疑似体験ができるようにしている。
  • 教科書では得る事のできない、身にしみる教育に力を入れている。
  • ケーススタディは、当事者の経験の追体験である。ケースメソッドは、自身の判断力を身に付けるための教育である。さらに、特別講演で、実際に開発した人がどのような場面でどのような決断をしたかを聞くことによって、その人の背中を見ることができるようにしている。
このような説明に対し、総合力を身に付けるには、体系的な考え方の整理が必要である。
さらに、民間会社は、実際の場で必要とする資質を兼ね備えた人間の育成を期待しており、そのような教育となっているかが正された。さらに、MOTにおける倫理教育の必要性が指摘された。
背中を見ることの重要性は、例えば、日経ビジネスの『敗軍の将兵を語る』が好評のように、MOTでは、成功失敗にかかわらず、その当事者の話を聴くことが必要ではないか?などの意見が出された。

<議論は次のように集約された>

議論は次のように集約された。
MOT教育では、社会の要望に対し、カリキュラム編成や講義方法などで従来の大学院とは違う努力をしていることは評価する。MOTは、この努力をさらに強化し、実践力・総合力を身に付けるようにすることが必要で、それがこれまでの一般教育との違いになり、MOT教育の重要性を社会が認識する事になる。

<授業方法について議論>

ケーススタデイ、ケースメソッドなどの講義方法がどの程度実践されているかが各校より説明された。

  • 大学による違いはあるが、3割程度というのが各大学の実施状況である。
  • ケーススタデイは成功体験が語られることになるが、それで終わってはいけない。そこでの暗黙知を如何にして形式知化し、普遍的なものにしていく必要がある。それがMOT教育の質の向上に繋がる。
  • 色々な事例を論理的なものに纏め上げる事ができるか?という疑問が出された。
  • 同じ事例でも、それを取り上げる教員によって、得られる結論は似ていてもそのアプローチ方法の違いがある。また、アプローチ方法について、文系、理系の違いがあっても、結局は同じような結論が導かれており、見方の違いが学習者にとって参考になる。
  • MOT教育の評価として、実践力を身に付けることをどのように評価していくのか?その具体的な方法があるかが議論されたが、結局は修了生の活躍を待つことになる。 その意味で、認証評価では、できる限り、修了生とのインタビュー時間を長く取って、顧客要望がどこにあるかを明確にし、社会からの期待に応えていくようにしたい。

<フロアより、MOTには60歳以上の学生がいるが、将来を支えるもっと若い人に力を入れるべきではないか?が質問された>

MOT教育は種々の経験を持つ学生が参加することによって成り立っている。講義に参加した学生がそれぞれの経験を交流し合うことによって相互に得るものが大きくなる。経験豊かな学生の存在は、質の高い教育に結びついていくと、各大学ともに、60歳以上の受け入れに肯定的な見解であった。

<日本の強みをもっと強くする様な教育、あるいはこれからの社会動向>

  • 今後、2%から3%の成長に対し、それを達成する事はかなり険しい。むしろ持続安定型社会(Sustainable Society)を志向すべきであろう。その際に、日本の強みは何かを検証する必要がある。輸出の7割が機械製品である事は、今後、どこを強くしていくべきかがはっきりしている。
    日本の特長は、機会に立脚した総合力の発揮である。
    また、循環型社会やInverse manufacturingを志向した教育も必要である。

<日本の強みをもっと強くする様な教育、あるいはこれからの社会動向>

<研究開発のありかた>
花王の後藤社長から提起されたコンセプトプルとテクニカルプッシュの問題について、ニーズ指向の開発が基本であるが、現在の難しさは、ニーズが顕在化していないことで、そのために、潜在ニーズを掘り起こすべく、シーズを製品の形にして投げかけて、潜在ニーズを掴み取るような開発が必要である。
コンセプト力は各企業ともに重視しており、そのような人材を欲している。例えば、ウオークマンがその典型であるが、このような教育はMOTでもっと積極的に行うべきではないか?
技術シーズがマーケットを作るプロダクトアウト型から、マーケットインに向かっている。
企業は、コンセプト力のある人材を求めている。このような社会の流れに沿うような教育がMOTには必要である。
花王のMOTの方法は、技術に立脚した経営で、技術に軸足をおいた「ものづくり」である。そのために、コア技術のインキュベーションセンターとして基盤研究会議をおき、この方針に沿って、商品開発研究や消費者価値が研究されている。ここにコンセプトプルを志向しながらも、ニーズを創出していかねばならない難しさがあり、この部分の教育が大学のMOTでできているだろうか?

<21世紀の技術開発>

日立の中村氏が提起された「ビジョナリーカンパニー」を中心に、そのような教育を実践するには、MOT教育は如何にあるべきかが議論された。「ビジョナリーカンパニーに沿う教育を個別科目で達成することは難しい。ここにMOT教育のコアとは何かを明確化し、総合科目として、要望に応えていく必要がある。また、実践力を身に付ける教育方法が必要である。

<コーディネーターコメント>

MOTシンポジウムも3回目となり、これまではようやく動き出したMOTを社会に知っていただくことが中心になっていたが、今回は教育の中身について、かなり突っ込んだ議論ができたと思う。
時間の関係で結論を出すには至らなかったが、社会がどんな教育をMOTに期待しているか?また、MOT側が、実践力・総合力を身に付けた人材育成のためにどのような教育をしているかが、かなり見えてきたディスカッションであったと考える。 重要なことは、MOT教育のコアとなる部分が何であるかを社会から見えるようにすることで、その上に、各大学の独自性が発揮されることである。
認証基準の目的は、MOT教育内容を明示することと、認証評価を通してMOT教育の改善の方向を明確にし、弛まぬ改善を実施していくことである。
最後まで多くの方に熱心に参加していただき、参加者の60%を超える方からアンケートを提出していただき、しかも、ほとんどの方がご自身のMOTに対する所見を意見欄に記載していただいた。このようなことはこの種のアンケートでは滅多にないことで、大きな関心を持った方に集まっていただけたと感謝している。一つ一つの貴重な意見をこれからのMOT教育に活かしていきたい。